蒼夏の螺旋

  “碧の里へようこそvv”〜夏のわんこたちとコラボ?続編



          




 それが堅苦しくも窮屈だったって訳じゃあないけれど。せっかくの夏、開放的な季節の到来と、思いがけなくも取れたお休みに便乗し。都心近くのマンションにて送ってた、時間に追われる生活から、ほんのちょっとだけ離れてみて。たった1週間強ほどのことだけれど、せいぜいのんびりと羽伸ばしをしようって、二人きりで遊びに来ていた箱根の別荘。その初日からさっそくにも、唐突に乱入してくださった人があってというサプライズがまず起きて。とはいえ、それもまた、夏休みへとアクセントを添えてくれた“嬉しいなvv”の一つ。此処でのお友達のわんこたちと跳ね回ったりお昼寝したり、その飼い主さんのご一家とのガーデンパーティーで盛り上がったり。まだ最初の3日ほどだってのに、すっかりと楽しい夏休みを堪能していたルフィだったってのに………。



  「…っ! ルフィが連れ去られたって!?」

 仲良しさんのわんこたちを、ご近所にあるご自宅までへと、送ってってたその途中。声が届くほども近づいてたってのに、路上からかつぎ上げられての拉致を敢行されてしまったルフィくんであり、
「そういや、妙にスピードを出してた車が出てったが。」
「あれかっ!」
 丁度このお家の庭の先を駆けてった、例のボックスカーだったようで。たちまちにもサンジがきりきりとその青い目を吊り上げて、そのまま母屋へ駆け込んでゆき、リビングのテーブルへ…一見するとノートタイプのPCを開いて何やら操作を始めている。また何か秘密兵器が出てくるのだろうか…と。もしもルフィがいたなら素早くそれを期待したところだが、あいにくと今は、仕事を離れるとPCとかネットワークとか、まるきり縁を結ばなくなるゾロしかいなかったので、そこまで思惑は伸びなかったらしく。何をおっ始めたんだろうかと意表を突かれて怪訝そうなお顔になっており、そんなせいでか、彼の彼らしさ、警察へ連絡だの、いやさ自慢の体力で駆け回って捜し出しちゃるというような、そっちへの俊敏な判断力と行動とまで、凍り掛かってしまったようでもあって。そこへと、

  「ごめんなさいっ。」

 わんこたちの飼い主さん、こちらの若奥さんと年格好のよく似た少年が、そりゃあ恐縮した様子で、音がしそうなほどもの勢いで頭を下げて下さったので、
「いやいや。るふぃ…くんのせいではないでしょうよ。」
 ああ、同じ名前って呼びにくいなと、今更のこんな最中に実感しているゾロだったりし。だってたったの数10m先というご近所さんだ。今時の物騒な世相を思えば、そしてこれが小学生のお使いだったりしたなら、一人で行かせたなんてと どこかに問題もあったかもしれないが。ああ見えてルフィ奥様、実年齢は成人なのだからして、それなりの用心とかはしていただろし。
“複数から力づくで掴み掛かられたってんなら、それはもうこっちの誰にも非なんてない。”
 逃げようがないことだから…と、その辺りの分別は さすがにあった旦那様。だから気にしないでと言ったのだが、るふぃくんは ふるふるとかぶりを振って見せ、
「俺が一緒にいたってのに、うかうかとルフィを攫わせちゃったんだもの。」
「一緒に?」
 いえあの、るうの何かあったらしい吠える声がして、それを聞いて出迎えに出て来てた眼前での凶行だったからと。こちらさんもまた、お話しする中に自分らの秘密を覆う“フィルターかけ”が いちいち必要なのが焦れったく。
「それに…カイも一緒みたいだし。」
「えっ!?」
「カイって…海くんが?」
 割り込んだ声はサンジのもの。何やら弄ってた設定の反映待ちか、それとも別の細工をするためか、輪に巻いたケーブルを小脇にし、リビングから出て来たところへ、こちらの会話が聞こえたらしく、
「あんな…まだまだ赤ちゃんみたいに覚束ない幼児まで攫ってったのか、あいつらっ!」
 切れ長の瞳がますますのこと鋭く吊り上がったのへ、
「あ…えと、じゃなくてわんこの方の…。」
 そうまで怒って下さったのは嬉しいし、こっちも心配には違いないけれど。一緒にいたウェスティの方のカイですようと、慌てて付け足した るふぃくん。
「…何で言い直すんだ。」
 こそりと…こっちは落ち着いて見えつつ、実はもっとずっと苛立ってた ぞろパパから訊かれ、
「だ・か・ら。赤ちゃんがいるなら慎重に構えなきゃ、穏便に説得しなきゃってなっちゃったら、助け出す手立てが限定されちゃうでしょ?」
 これこそ母の落ち着きか、それとも…自分たちの“能力”への信頼か。真剣真摯には違いないが、逼迫してはいないらしい るふぃママであり。
「カイは幸いにも今はわんこの姿でいるからね。」
 わんこにメタモルフォゼしている時は、人間の三歳児とは運動能力が格段に違うから。それが小さな小さな声でも、呼ばれれば弾丸みたいな早さで駆けて来れるし、鼻だって利くから姿を見せなくとも方向を誤ったりもしなかろう。だっていうのに、まだ歩くのも覚束ない子供が一緒だということで運ばれては、対処の色々な部分へ“安全のため”という制限が思うより余計に付加されてしまうかも。無論のこと、安全に助け出してほしいが…それでもね。
「こういうことへは情報も正確なのが第一、でしょ?」
 えっへんと自信満々だった るふぃママだったが、そんな心得どこで覚えたと訊きかれた後日、
『ミホークのおっちゃんが、たんてー小説の中で書いてた。』
『………おいおい。』
 架空のお話、机上の論理だったんかいと、ぞろが呆れたのは言うまでもなかったりするのだが………まま、理屈は正しいので念のため。そしてそして、こちらのるふぃくんが、自分よりも上背のあるお兄様がたを見回して、あのね・あのあのと付け足したのが、

  「…もしかして、ルフィってばオレと間違えられたのかもしれない。」
  「え?」

 声をかけてきた男の匂い、今にして思えば…どこかで嗅いだ覚えがあって。でも、そんなのが手掛かりだとは言いにくく、そこだけ“見覚えがあった”と言い直し、
「ウチの庭先、ほら…先がシラカバの雑木林に入ってく側の茂みのあるとこ。」
「あ、ああ。」
 住宅街の一番の奥向きに鎮座ましますのが、ろろのあさんのお宅であり。その先は、このご町内の周縁を山側から取り囲みかけてるシラカバの林と接していて。
「一昨日だったか、そこで何かしら こそこそしてた人が居てサ。」
 ご近所さんや顔見知りの御用聞きさんはたいがい知ってるし、この時期だからと都会から来た人でも、それぞれのお家の匂いが染み付くから判る。それがさっぱりしなかったんで、怪しいなと警戒し、
「お年寄りの多い土地だからってので、空き巣とか訪問販売の悪徳業者が目をつけて来てたんだったらヤダなって思って。」
 何か御用ですかって声かけたら、慌ててどっか行っちゃったんだけど。

  「携帯で誰かと話してた風だったんだよね。」

 しかもそんな…どこででも見かける行為だってのに逃げただなんて。疚しい何かがあったからだって思えない?





            ◇



 そこいらの通りだって人影はないも同然だってな閑静な別荘地。だっていうのに尚のこと警戒するかのように、人の気配のない場所でこそこそと電話連絡を取ってた謎の男がいたと言うるふぃであり、
「あの辺だった。」
 人の姿になってても、お耳の感度はいいるふぃだが、関心のないことまで全てを拾っていてはキリがない。それで何を話してたかは知らないんだけどもと言いつつ、自宅の裏手、問題の場所まで足を運ぶ彼だったので。ゾロとサンジとぞろとがついてゆけば、
「…あ、何かある。」
 秋には真っ赤になるというイヌツゲの茂みの中、何かが引っ掛かっていたらしい。結構奥まったところらしくて、腕を肩まで突っ込んでごそごそと、うぎぃ〜〜〜っと頑張ってる彼なのを見やりつつ、
「………よく判ったなぁ。」
「ああ、外からでは全然見えないもんなぁ。」
 匂いでも判る子なんですよとは、さすがに言えずで。何とも答えられないまま、後ろ頭を掻いてたぞろさんだったものの、
「痛たたた…。」
 薄着の半袖。そんな腕を突っ込んだのだ、茂みのあちこちに引っ掻けまくっているに違いなく。自分の方がリーチもあるし、代わろうかと声を掛けかかったところへ、

  「取れたっ!」

 ずぼぉっと、引き抜かれた細かい傷だらけの腕の先、彼が手にしていたのは…表にも裏にも何の印刷もない、真っ白なプラスチックのカードが1枚。
「これを取り戻したいんじゃないのかな。」
 電話しながら手の先で何かもてあそんでたの、覚えてる。見覚えがある怪しい男(正しくは“同じ匂い”つき)に、やっぱり覚えのある怪しいカード。るふぃの姿を見てあわわ…と逃げたはずが、今度はるふぃに似た背格好で、しかもこの家のわんこを連れてたルフィを狙い定めて連れてったということは、

  「そうか。ここで目撃されたと思ってることが接点か。」

 手渡されたカードには、印刷こそないが下の縁に端から端まで、黒い磁気テープがラインみたいについているから、
「どっかのカードキーかもしれないですね。」
「それか、伝言や情報が入ってるとか。」
「ICカードほど複雑じゃあないから、簡便に作れる代物だが…。」
 それでも、単なるメモやいかにも“鍵です”という形状のものよりは、様々な秘密も隠せよう。今るふぃくんが随分と苦労して引っ張り出したくらいだから、相当奥まったところに嵌まってたに違いなく。後で戻って来たとても、パッと見では判らずで探し切れなくて。それで、
「俺が持ってったとか、お掃除して処分したと思ったとか。そう思ったんじゃないのかな。」
 そうと説明するるふぃに、ゾロとサンジが成程ねと納得し、
『あのね、あの後 小雨が降ったんで、匂いとかは流されたか、全然しなかったの。』
 でも、今回はじっと意識して検索して。それで“見えた”の。これもやっぱり、後日に語ったるふぃだったそうだけれど…それもともかくとして。
「都会から帰省して来た、若い年代の人たちが今は結構いますけど、それにしたって、ルフィさんと俺って、傍から見ると大層似てるそうだっていうし。」
 一緒にいて違う服装でもしててくれないと、どっちがどっちと見分けがつかないくらい、似ているらしいと。
「ああ、それは俺もあちこちで聞いてるよ。」
 ゾロが頷き、こちらのご亭主の ぞろもまた感慨深げにうんうんと同意していたが。その事実を、しかも“不思議だ”と感じるのは、此処にいるあんたたちだけだからね、言っとくけれど。
(笑) こちらもやはり、行方不明のカイくんを心配なさってるツタさんが、どちらがウチのお若い旦那様の“ゾロ”さんだろかと、少々混乱仕掛かっているほどに。だからなのか、傍らまで寄って来られないように。
“…じゃあないって。”
 ツタさんは慎み深いから、やたらクチバシを突っ込んじゃあいけないとだな。筆者を睨もうとしかかったぞろさんの所作を遮って、

  「よしっ、ともあれ一刻を争う事態ではあるらしい。」

 ルフィとカイくんの行方を捜し出すのが先決で、だが、こちらのお家ももしかして、犯人が連絡を入れてくるやもな重要基点になりそうだからということで、
「すみませんが…こちらに俺たちもお邪魔させていただいて構いませんか?」
「はい、こちらからこそお願いします。」
 いきなり駆け出さない冷静な対処になったのは、さすが大人の皆様であったから。それから…こういったきな臭い事態へ、嬉しくはないが慣れのあるサンジェストさんがいてこそのものであり、

  「だからって、連絡待ちってだけで済ましゃあしませんて。」

 おおう。何かしら“攻め”の対策も出すつもりらしく。いよいよ予断を禁じ得ない状況になって来たようでございます。





←BACKTOPNEXT→***


  *書いてる方もややこしいですが、読んでる皆様もややこしいに違いない。(苦笑)
   こういう時に絵描きの方が本当にうらやましいなって思いますが…。
   このネタではややこしさは同じかな?